寄与分
目次
寄与分
1 寄与分とは
相続人のなかに、亡くなった被相続人の財産の維持増加に貢献した人X(エックス)がいる場合です。
まず、その部分の金額を、相続財産から引きます。
そして、残った部分の金額を相続人全員で分けます。
さらに、Xだけ、最初に引いた部分の金額を足してもらいます。
これが寄与分です。
たとえば、亡くなった被相続人Aの財産が1000万円だったとします。
そのうち、XがAを介護したことにより介護費用を節約できた部分が200万円だったとします。
そのとき、まず、1000万円から200万円を引きます。
そして、残った部分の800万円を2人の相続人XとYで400万円ずつ分けます。
さらに、Xだけ、最初に引いた部分の200万円をもらいます。
結論として、Xは600万円、Yは400万円となります。
寄与分は、遺産分割では、もっともよく出てくる争点の一つです。
2 寄与分の基本的な考え方~親孝行に報いる制度ではない
寄与分は、親孝行に報いる制度ではありません。
この点は、世間一般では誤解が多いので注意が必要です。
重要なポイントは、以下の2点です。
① その寄与が「特別」なものであること
② 被相続人の財産が維持または増加したこと
⑴ その寄与が「特別」なものであること
寄与分が認められるためには、
その寄与が、「特別」なものであることが必要です(民法904条の2「特別の寄与」)。
「特別」とは、通常期待されるレベルを超えるという意味です。
言い換えると、普通はここまでしないというレベルです。
単なる親孝行のレベルではありません。
単に、親と同居したとか、親の病院の付添いをしていたとか、親の見舞いに行っていたというレベルではありません。
⑵ 被相続人の財産が維持または増加したこと
寄与分が認められるためには、
被相続人の財産が維持または増加したことが必要です。
実際に、相続人の行為によって、被相続人の財産がいくら維持できた、いくら増加したと目に見えることが必要です。
単なる親孝行の話しではありません。
一般論としてですが、この基本的な考え方により、寄与分が認められるためのハードルはかなり高い、
と構えておく必要があります。
3 寄与分の類型
実務では、寄与分は5つに類型化されています。
寄与分が争点となるケースでは、
この類型は必ず意識する必要があります。
① 療養看護型
② 家業従事型
③ 金銭出資型
④ 扶養型
⑤ 財産管理型
このうち、よく出てくるのは、①の療養看護型です。
2023年3月時点では、遺産分割調停であたる福岡の代理人弁護士の半分以上が、
この類型を意識せずに、ただ漫然と寄与分の主張をしている印象です。
その意味では、福岡では、相続案件を扱う弁護士のレベルはそれほど高くないと思います。
しかし、今後は、世間一般で相続案件が増え、相続案件を扱う弁護士が増えていくと予想されますので、
いずれ弁護士のレベルも上がってくると考えられます。
4 療養看護型
療養看護型の寄与分とは、文字どおり、被相続人を看護した、介護した、という場合です。
5つの類型のうち、もっともよく出てくる類型です。
⑴ 療養看護型の要件
療養看護型の寄与分が認められるための要件は、
以下のとおりです。
① 療養看護の必要性
② 特別な貢献
③ 無償性
④ 継続性
⑤ 専従性
⑥ 財産の維持・増加
⑦ 財産の維持・増加と寄与行為との因果関係
ひとつずつみていきます。
① 療養看護の必要性
療養看護型の寄与分が認められるためには、
まず、療養看護の必要性が認められることが要件です。
具体的には、以下のとおりです。
ア 疾病や障害があること
イ 原則として、要介護2以上であること
実務では、原則として、要介護2以上であれば、
周りの人の援助がなければ生活ができない状態であるとして、
療養看護の必要性が認められています。
ただし、これは要注意ですが、介護サービスを受けている場合は、原則として、寄与分は認められません。
なぜなら、介護保険制度の建てつけ自体が、
プロの介護職が必要な部分については、プロの介護職による介護サービスを受け、
それ以外の部分については、親族が扶養義務に応じて自前で介護することとされているからです。
いいかえると、介護サービスを受けていない部分の貢献については、
親族に通常期待されるレベルの貢献でしかなく、
特別の貢献といえないないということです。
別のいいかたをすると、介護サービスを受けていない部分の貢献によっては、
被相続人の財産の維持も増加もないということです。
そうすると、介護保険制度が導入された2000年(平成12年)3月以降は、
療養看護型の寄与分は、かなり認められにくくなっていると思われます。
典型的な立証方法としては、
要介護認定の結果通知書、
要介護認定資料一式(主治医意見書、概況調査、基本調査、認定調査票(特記事項))、
です。
要介護認定の結果通知書や要介護認定資料一式は、
福岡市の場合、保有個人情報開示請求をして、取り寄せます。
② 特別な貢献
療養看護型の寄与分が認められるためには、
身分関係上、通常期待されるレベルを超えて、貢献していることが必要です。
親子だったら、通常これぐらいするよね、というレベルでは寄与分は認められません。
③ 無償性
療養看護型の寄与分が認められるためには、
その療養看護について、対価を得ず、無償でしている必要があります。
たとえば、被相続人である親に生活費を負担してもらっていたり、親の家に同居して家賃を負担していなかったりする場合は、
無償性の要件を欠き、寄与分は認められません。
ただし、ほんとうに無償といえるかどうかは、ケースバイケースです。
たとえば、親に生活費を負担してもらっていても、その額がわずかな場合には、無償と言いやすくなります。
また、親の家に同居して家賃を負担していなくても、親からどうしても同居してほしいと言われて同居した場合には、
無償と言いやすくなります。
さらに、親に生活費を負担してもらっていても、親の家の同居して家賃を負担していなくても、
親がたとえば要介護度5で、看護がかなり大変だった、などの場合は、無償と言いやすくなります。
結局、実務では、無償といえるかどうかは、看護介護とのバランスがとれいているかどうかで判断します。
④ 継続性
療養看護型の寄与分が認められるためには、
おおむね1年以上は、その療養看護をしている必要があります。
たとえば、被相続人である親が入院するまでの3ヶ月程度、親の看護介護をしたという程度では、
継続性の要件を欠き、寄与分は認められません。
⑤ 専従性
療養看護型の寄与分が認められるためには、
相当程度、その療養看護に専念して従事している必要があります。
たとえば、昼は会社に勤めて、夜だけ被相続人である親の看護介護をしていた場合などは、
専従性の要件を欠き、寄与分は認められません。
⑥ 財産の維持・増加
療養看護型の寄与分が認められるためには、
まず、被相続人である親の財産が維持・増加している必要があります。
たとえば、ヘルパーや看護師を頼まずに済んだので、お金が浮いた、という場合です。
単なる親孝行では認められません。
⑦ 財産の維持・増加と寄与行為との因果関係
療養看護型の寄与分が認められるためには、
財産の維持・増加と寄与行為との因果関係が必要です。
たとえば、相続人である子が介護した→ヘルパーを頼まずに済んだ→お金が浮いた→親の財産が減らずに済んだ(維持)
という直接的で具体的な関係性です。
単なる親孝行では認められません。
⑵ 療養看護型の寄与分の計算式
療養看護型の寄与分の計算式は、以下のとおりです。
報酬相当額(介護報酬基準額) × 介護日数 × 裁量割合
介護報酬基準額とは、介護保険制度で要介護度に応じて定められている介護報酬の額です。
訪問介護の身体介護報酬基準に基づく場合、
2021(令和3)年 福岡市(5級地 上乗せ割合10%)では、
具体的な報酬相当額を試算すると、以下の額になります。
(1単位10円 × 訪問介護サービスにおける人件費割合70% × 上乗せ割合10% = 加算額 = 0.7円)
要介護度 | 要介護認定基準時間 | 試算用設定時間 | 単位 | 報酬相当額(基本) | 報酬相当額(福岡市) |
要介護2 | 50分以上70分未満 | 60分 | 579 | 5,790円 | 6,195円 |
要介護3 | 70分以上90分未満 | 80分 | 579 | 5,790円 | 6,195円 |
要介護4 | 90分以上110分未満 | 100分 | 663 | 6,630円 | 7,094円 |
要介護5 | 110分以上 | 120分 | 747 | 7,470円 | 7,992円 |
裁量割合とは、相続人による介護が、有資格ヘルパーなどのプロによる介護ではないことなどから、寄与分の額を調整するために掛ける割合のことです。
平均的な裁量割合は、0.7です。
療養看護したといっても、どのぐらいの症状で、どのぐらいの療養看護をしたかは、ケースバイケースです。
また、介護した相続人が、被相続人の妻である場合と子である場合とでは、扶養義務の程度が違います。
また、介護した相続人が、被相続人と同居していることで、居住費や生活費の点で、メリットを受けている場合もあります。
このような様々な要素を調整するために使われるのが、裁量割合です。
通常、0.5から0.8程度が使われています。
⑶ 療養看護型の寄与分が認められるケース・認められないケース
いくつか具体例をあげます。
・ 親の介護のため会社をやめたので収入がなくなった
→ 認められない
(理由)被相続人の財産の維持・増加と、介護者の収入減は関係がない
・ 親がうつ病になったのでそばにいてあげた
→ 認められない
(理由)身体的症状がないので療養看護の必要性がない。また親子だったら普通のことなので特別な貢献がない
・ 入院中の親の身の回りの世話をした
→ 認められない
(理由)入院中は病院が看護するため、療養看護の必要性がない
・ 施設入所中の親の身の回りの世話をした
→ 認められない
(理由)施設入所中は施設が介護するため、療養看護の必要性がない
・ 要介護1だったが、認知症で徘徊がひどかった
→ 認められる可能性がある
(理由)要介護1だが例外として療養看護の必要性がある
・ 要介護2だったが、親が嫌がって介護サービスを受けなかったので、子が看護した。
→ 認められる可能性がある
(理由)療養看護の必要性、特別な貢献、財産の維持がある。
・ 相続人である夫ではなく妻が介護した
→ 認められる可能性がある。
(理由)妻は夫の履行補助者ととらえる。
5 家事従事型
家事従事型の寄与分とは、被相続人の家業を手伝ったという場合です。
家業とは、農業、漁業等が典型ですが、
製造業、加工業、小売業、医師、弁護士、公認会計士、税理士等の場合もありえます。
家事従事型の寄与分が認められるための要件は、
以下のとおりです。
① 特別な貢献
② 無償性
③ 継続性
④ 専従性
⑤ 財産の維持・増加
⑥ 財産の維持・増加と寄与行為との因果関係
これらの要件のうち、特に問題となるのは、②の無償性の要件です。
被相続人の家業を手伝ったといっても、令和5年現在の世の中では、
報酬や給料をもらわずに、家業を手伝っていた、ということは考えにくいです。
また、仮に、報酬や給料をもらわずに、家業を手伝っていたとしても、
被相続人と同居して、生活させてもらい、利益を受けている場合が大半だと思います。
このような場合、②の無償性の要件が認められず、寄与分は認められません。
昭和の時代ならいざしらず、令和5年現在の世の中では、
家事従事型の寄与分が認められるケースはほとんどないように思います。
6 金銭出資型
金銭出資型の寄与分とは、被相続人に対して、何らかの金銭を出資した、という場合です。
たとえば、被相続人の自宅のリフォーム代として、300万円を支出したというケースです。
金銭出資型は、比較的、寄与分が認められやすい類型です。
金銭出資型の寄与分が認められるための要件は、
以下のとおりです。
お金を支出した、という1回的な行為でも認められるため、継続性、専従性は不要です。
① 特別な貢献
② 無償性
③ 財産の維持・増加
④ 財産の維持・増加と寄与行為との因果関係
たとえば、リフォーム代の領収証などの証拠があれば、寄与分が認められることが多いです。
7 扶養型
扶養型の寄与分とは、文字通り、被相続人を扶養したという場合です。
たとえば、年金収入が月6万円の被相続人に月10万円を送金した、というケースです。
扶養型の寄与分が認められるための要件は、
以下のとおりです。
金銭出資型との違いは、扶養の必要性があったか、1回的か継続的かという点ですが、
厳密に区別できるわけではないと思います。
① 扶養の必要性
② 特別な貢献
③ 無償性
④ 継続性
⑤ 財産の維持・増加
⑥ 財産の維持・増加と寄与行為との因果関係
このうち、問題になりやすいのは、①の扶養の必要性の要件です。
被相続人に多額の資産や収入がある場合などは、扶養の必要性が認められません。
8 財産管理型
財産管理型の寄与分とは、被相続人の財産を管理したことによって、財産の維持形成に貢献したという場合です。
たとえば、被相続人の所有するアパートの管理を、管理会社に委託せず、
相続人がすべて管理してあげたというケースです。
財産管理型の寄与分が認められるための要件は、
以下のとおりです。
① 財産管理の必要性
② 特別な貢献
③ 無償性
④ 継続性
⑤ 財産の維持・増加
⑥ 財産の維持・増加と寄与行為との因果関係
このうち、問題になりやすいのは、②の特別な貢献の要件です。
たとえば、相続人が、アパートの借主の募集、契約、家賃の取り立て、原状回復など全般をしていた場合は、
特別な貢献と認められやすいと思います。
逆に、アパートの掃除や草むしりをしていたにすぎない場合は、
特別な貢献とは認められません。