解決事例5~危急時遺言と死因贈与への転換 危急時遺言の要件を欠いたが、死因贈与への転換を主張し、認められたケース。
危急時遺言と死因贈与への転換 危急時遺言の要件を欠いたが、死因贈与への転換を主張し、認められたケース。
ご相談前
ご相談者様は、亡くなった被相続人(男性)の姉でした。
亡くなった被相続人には、子どもがいましたが、生まれてすぐに妻と離婚し、子どもとは交流が途絶えていました。
被相続人は、税理士として仕事をしていましたが、その仕事を長きにわたって手伝ってきたのが、
姉であるご相談者様でした。
被相続人は、がんにり患し、あるとき症状が急変して、余命わずかとなりました。
被相続人は、長きにわたって自分を支えてくれた姉に報いるために、
「全財産を姉に遺贈する」
という内容の危急時遺言(民976条。病気などで亡くなりそうなときに口頭で作成する遺言)を作成していました。
ところが、被相続人が亡くなった後、交流が途絶えていた子どもが、
この危急時遺言は要件をみたさず無効なので、唯一の相続人である私に遺産をすべてください、
と主張してきたのです。
解決結果
危急時遺言を作成した人が、回復してから6か月間、生存していた場合、
遺言は無効になります(983条)。
本件でも、遺言者の急変した症状が落ち着いてから、6か月間が経過していました。
そうすると、危急時遺言は無効になるため、本来は、公正証書遺言を作成しておくべきでしたが、
そこまではできていませんでした。
そこで、弁護士としては、
たしかに、本件遺言は無効の可能性はあるが、
遺言者である弟の最期の意思が表明されているものであり、
いわゆる無効行為の転換の理論により、死因贈与として有効である、
と調停において主張しました。
そうしたところ、調停の裁判官がこれを認める方向性を示唆したため、
相手方の子どもも、これに従うことになりました。
すなわち、「死亡したときは全財産を姉に贈与する」
という死因贈与契約が成立していることを前提として、
調停を成立させることとなりました。
最終的に、姉は、遺言者の子どもには、遺留分相当額(2分の1)を支払い、
自分も遺産の2分の1を受け取って、弟の最期の意思を受け取ることができました。
弁護士のコメント
無効な遺言が死因贈与として有効である、
という発想は、法律家でなければなかなか思いつけないと思います。
なお、これは、自筆証書遺言で、日付がない、印鑑が押されていない、
などの場合でも使える理論です。
なお、本件遺言は、姉も同席して作成されたものであり、
いわゆる贈与の申込みの意思表示と承諾の意思表示もあることを主張して、
死因贈与契約の成立が認められました。
死因贈与は契約なので、たとえば、受贈者の知らないところでその遺言が作成されていた場合などは、
申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致がなく、契約の成立が認められません。
よって、死因贈与への転換は認められないことになります。
その点には留意する必要があります。