読書メモ4 「被相続人の生前に払い戻された預貯金を対象とする訴訟についての一試論―最近の第一審裁判例の分析―」長田雅之 判例タイムズNo.1500 2022.11
いわゆる使途不明金(預貯金が使込まれているケース)訴訟について書かれた論文です。
著者は現役の裁判官です。
「被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について」判例タイムズNo.1414 2015.9
とセットで必ず読んでおくべき論文だと思います。
なぜなら、現役の裁判官はみな判例タイムズの論文には目を通しており、
現時点では、これらの論文を参考に、訴訟指揮を行っていると考えられるからです。
以下、参考になった点です。
・ 被相続人がその意思に基づいて相手方相続人に対して通帳等を交付し、
暗証番号や届出印を伝達・交付して、
預貯金の払戻し及び当該払戻金の支出(使途)等の管理を開始したケースを
委託型関与と呼んで分類してみる(40ページ)。
・ 委託型関与における善管注意義務(民法644条)の内容を画するものを、
「委託の趣旨」と呼んで検討してみる(42ページ)。
・ 当該払戻し及び当該使途が、委託の趣旨に合致しているかどうかを検討すべきで、
キーワードとしては指図遵守義務(とりわけ贈与の主張において)、
分別管理義務、受取物引渡義務など(43ページ)。
・ 委託型関与においては、当該払戻し及び当該使途についての
(準)委任契約上の善管注意義務違反による損害賠償請求(債務不履行構成)
が第一次的に検討されるべきである(44ページ)。
しかし、最近の第一審裁判例をみると、不法行為または不当利得構成が大多数を占め、
必ずしもそうなっていない(44ページ)。
もっとも、債務不履行構成と不法行為・不当利得構成とでは、請求原因は同じになる(45~46ページ)。
・ そうすると、あえて法定債権(契約に基づかない債権)である不法行為・不当利得構成を採用すべき理由に乏しい
ように思われる。
ただ、訴え提起の時点では、提起相続人は被相続人の財産状況一般を把握していなかったり、
被相続人が相手方相続人に通帳等の管理を委託したと認めること自体に心理的抵抗がある事案も多く、
争点整理の初期段階において相手方相続人による関与の形態を明確にさせることが困難なことも多い
のではないかと考えられる(47ページ)。
・ いずれにせよ、委託の趣旨の認定が実質的な争点となり得る(47ページ)。
・ まとめると、
被相続人の生活費、医療費及び介護費用等を除き、
原則として委託の趣旨を認定したうえで、
払戻し全体または払戻金の使途が、委託の趣旨に適合しているのかを判断する(51ページ)。
・ そして、委託の趣旨は、
① 被相続人が相手方相続人に対し通帳等を委託した経緯
② 被相続人が相手方相続人に対し通帳等を委託した状況
③ 相手方相続人による被相続人の財産管理の状況
を考慮要素として認定する(42ページ)。
・ 本訴訟類型は、被相続人と相手方相続人という身内での出来事に関するものであることや
財産管理について一定の経験則が形成されているとはいいがたいことから、
委託の趣旨を判断することに困難を伴うものの、
裁判所としてこの点の判断を避けることはできないものと考える(51ページ)。
・ 被相続人の通常の生活費につき、
委託の前後の一定期間の収支を確認するなどの方法で
一定の概算額を認定することも可能。
他方、高額な払戻やその使途については、深堀りする必要があることが多い。
このように、使途の説明をどの程度の詳しさ「粒度」で求めて、争点整理を行うか見極める(54ページ)。
・ 被相続人が、その財産管理を第三者ではなく身内に委託していることからすると、
その身内である相手方相続人に一定の裁量が与えられていることが多く、
その裁量の幅の認定こそが委託の趣旨の認定そのものである(54ページ)。