読書メモ6 被相続人からの継続的金銭給付と「生計の資本」 岡山大学法学部准教授(当時) 中川 忠晃/月報司法書士2011年8月
被相続人から、相続人の1人に対し、継続的に少額の金銭給付がなされているケースがあります。
この場合、それが「生計の資本」(民法903条1項)にあたり、特別受益となるのか、あるいは、
単なる相続人の1人対する扶養料の渡しになるのか、判断が非常に難しいケースがあります。
そのようなケースについて、実際の事件(東京家審平成21年1月30日家月62巻9号62頁)を素材として、
検討した論文です。
時期はやや古いですが、
「第4版家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」(片岡武/菅野眞一)(日本加除出版2021年12月)で引用されており、
現在でも参考になります。
参考になった点は、以下のとおりです。
・ 「親族間の扶養的金銭援助」かどうかという基準で判断している。
・ 「扶養」という点でいくと、
民法上の扶養義務は、
①民法752条(夫婦)または877条(直系血族など)が定める一定の親族関係にあること
②扶養権利者の要扶養状態
③扶養義務者の扶養能力
④扶養権利者の請求
このうち、裁判例では、③は考慮されているが②が考慮されていない。
②扶養権利者の要扶養状態も考慮されるべき(もっとも、煩雑であることは否めない)。
・ 裁判例では、持ち戻すべき金銭給付か否かの区別基準を10万円とし、
これを超えたら全額を持戻し、超えなかったら全額を持ち戻さないとしている。
しかし、ひと月の間に、5万円と8万円の給付があった場合や、
ひと月の間に、13万円と15万円の給付があった場合、
結論が明らかに不合理になる。
すなわち、前者は持戻しなし、後者は28万円の持戻しとなるが、
ひと月10万円という区別基準はすでに機能していない。
・ 結局、被相続人からの継続的金銭給付を相続法上どのように取り扱うべきかは
未だはっきりしない。
なお、「第4版家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」では、
上記論文を受けて、以下のような私見が述べられています。
・ 「親族間の扶養的金銭援助を超えるもの」という選別基準により
各贈与の持戻しの可否を判断するのが相当であり、その場合、まず、
①冠婚葬祭や慣習に伴う贈与を含めたすべての贈与をあげ、
②そのうえで上記冠婚葬祭等の贈与を除外し、次に、
③扶養権利者(給付を受けた相続人)の要扶養状態、扶養義務者(被相続人)の扶養能力を検討したうえで、
親族間の扶養的金銭援助といえる金額を推計すべきである。
これは、扶養権利者が、経済的に裕福な場合などに、反論として使える考え方だと思います。