読書メモ3 「ストーリーと裁判例から知る 遺言無効主張の相談を受けたときの留意点」日本加除出版株式会社 2020年12月4日 初版発行
遺言無効の相談を受けたときにやるべきことについて書かれた本です。
2024年8月現在では、遺言無効について、かなり詳しく書かれた本のうちの1冊だと思います。
参考になった記載は、以下のとおりです。
遺言公正証書の証人2人が誰になっているか(身内で固めているか)、どこの公証役場のどの公証人で、その公証人は現在も在籍しているか(公証人への証人尋問の可能性)、
検察官出身かそれとも裁判官出身か(家裁実務に精通しているのは裁判官)、作成場所は公証役場かそれとも遺言者の入所施設か(遺言者の心身の状態)、なども確認する(14頁)。
資料を検討した結果、遺言能力を争えそうにない場合、遺留分侵害額請求について交渉することになるが、
その際、10か月の相続税申告期間というのは交渉材料になる(相続税支払い原資の確保)(75頁)。
認知症の進行の程度に関する事情として、抗認知症薬(アリセプト、イクセロンパッチ等)の処方量に着目してみる
(例:アリセプトを5ミリグラムから10ミリグラムへ→重症を示す事情)。
意識障害(せん妄)とは、急性の脳機能障害で、幻覚・興奮・判断力低下・見当識障害・睡眠障害等の症状を伴うが、
認知症と異なり一過性の症状である。
よって、遺言書作成時点でせん妄の影響があったかどうか、あったとしてどの程度であったかを検討する必要がある(88頁)。
高齢者のうつ病は、「仮面認知症」と呼ばれることもあり、治療可能であるが、
うつ病が重度に進行することで判断能力が大きく損なわれるという場合もありえる(89頁)。
遺言と異なる遺産分割協議をめぐる諸問題(119頁)
・ 相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割協議をすることはできる。
ただし、不動産に関する特定財産承継遺言については、即時権利移転の効力を生ずるとするのが
最高裁判例(最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁)なので、
理論的な説明は必ずしも容易ではない。
・ 遺言と異なる遺産分割協議をした場合でも、贈与税は発生しない(国税庁タックスアンサーNo.4167)。
・ 遺言と異なる遺産分割協議をする場合、遺言を執行する義務を負う遺言執行者の同意を得ておくべき。